新聞案内人詳細

2011年01月14日

川本 裕子 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授 経歴はこちら>>

「変わるものと変わらぬもの」見極めているか(1/2)

 新しい年があけて、「今年こそは○○」という決意をしている人も多いのではないだろうか。運動をしよう、語学力をつけよう、読書をしよう、等々・・・・・・しかし旧弊を捨て、新しい習慣をとりいれることは、なかなか難しい。

 似たような話だが、ある現象を見て、何が新しいのか、何が変化しているかを見極めるのは難しいことが多い。

○人気車種が売れなくなった原因

 先日、アメリカである車が製造中止になったという記事があった。その車種は、長い間、アメリカで中流階級好みとされ、中流階級が買う代表銘柄だったということである。人気の秘密は中流階級の『ほどほど感』にあっていた、というような説明があり、売り上げ減少の原因として「貧富の差が拡大して、中流層がしぼんだ」との意見を引用していた。

 確かにその可能性は大きいのだろうし、短い記事のなかでそれ以外の見方の紹介をする余裕はなかったのかもしれない。しかし、少し単純すぎないかという疑問も残った。つまり、米国民のライフスタイルが同じだという前提にとらわれ過ぎていないか、格差拡大を中心にするストーリーにこだわりすぎていないか、という点である。中流と呼ばれる人たちも含め、人々の価値観やライフスタイル自体が時代とともに変わっている可能性について考える余地は大きいのではないだろうか。

 日本の最近の若者たちを例にとっても、自家用車の意味が変わってきているのは明らかだ。「移動の手段」であっても、憧れの品でも贅沢品ではない。今の中高年が若かりし頃のように、スポーツタイプの車に特に人気があるわけでもない。出世魚のように人生の局面に応じて一ランク上の車に乗り換えていく時代も終わっている。排気量の大きい車に憧れる人は少なくなり、「エコ志向」で、コンパクトな車の方が知的でスタイルがあると感じる層も多いのではないか、と今の学生を見ていると思う。これは若者に限った話ではなく、財界人の中でも「進んだ人は大きな車に乗っていない」という話も聞いたことがある。

 こうした点を考えれば、自動車の売れ行きの変化から、「アメリカ社会の格差拡大」といった見方以外にもさまざまな広がりを持って物事を理解することが可能になったのではないだろうか。

  →次ページに続く(生命保険の場合も)

新聞案内人コラムへ投稿する

前回の新聞案内人

加来 耕三

大久保彦左衛門:転換期の言葉と人物類型

 いま、徳川家康の生涯を戦国乱世から幕藩体制の築かれるまでを背景に、調べかつ執筆している。・・・>>続き

2回前の新聞案内人

池内 正人
池内 正人
元日本経済新聞経済部長・テレビ東京副社長

エコ補助金の功罪をきちんと問え

 中国、アメリカ、日本、ブラジル、ドイツの順となった。オリンピックの話ではない。昨年の新車販売台数である。中国は1800万台を超し、2年連続で世界一となった。アメリカも前年比11%増の1159万台まで・・・>>続き

3回前の新聞案内人

坂村 健
坂村 健
東大大学院教授

ワインから見る新聞の未来

 新聞本紙でなく新聞ウエブサイトのワインに関するコラムやニュースが興味深い。読売のヨミウリ・オンラインでの『ドリンク&ワイン』のページの充実は素晴らしい。毎日のように更新される『ワイン・ニュース』やワ・・・>>続き

ご購読のお申し込み

3紙おすすめイベント

特集・座談会シリーズ

シリーズ座談会「日本のビジョン」
 シリーズ座談会「日本のビジョン」、第4回は「震災復興の今と課題」。朝日、日経、読売3紙の現地編集トップが被災地の生の姿を語り合いました。
出来事ファイル 2008-2012年
あらたにす開設以来の月別主要ニュースを号外と写真を中心に振り返ります。
少年の主張全国大会(わたしの主張2011)
全国の中学生による2011年「少年の主張」全国大会の模様をお伝えします。
シリーズ座談会「日本のビジョン
三紙の論説、編集委員が徹底討論。第3回は混乱する日本政治の再生を考えます。
JGA 3大オープンゴルフ特集
9月29日スタート!ゴルフ3大イベント「日本女子オープン」「日本オープン」「日本シニアオープン」を特集します。
シリーズ座談会「日本のビジョン」
朝日・日経・読売の編集委員が徹底討論。第二回は財政や税、復興資金などを多角的に考える「どうする復興財源」です。
シリーズ座談会「日本のビジョン」
朝日、日経、読売の論説・編集委員が徹底議論。第1回は原発事故を経た日本のエネルギー政策。
「2011年の世界」3紙座談会
国際問題担当エディター・編集委員が2011年の世界の注目点を議論しました。
【特別リポート】欧州財政再建と市民-英国の現場から
福祉切り下げや増税など、痛みを伴う改革への市民の反応を報告します。
3社論説トップ鼎談2010
鳩山政権が初めて迎えた新しい年。直面する「政治とカネ」「日米関係」「デフレ」などの問題に議論を交わしました。
麻生内閣総理大臣と鳩山民主党代表による党首討論(2009年8月12日)


3社論説トップ鼎談2009
あらたにす開設1周年 今年も論説委員会トップ3人が激論。
3紙「年金提言」座談会
老後を支える年金制度の改革案を議論しました。
2008年 3社論説トップ鼎談
社説を書く論説委員会トップ3人が年頭に激論。

あらたにす便り