2011年06月17日
川本 裕子 | 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授 | 経歴はこちら>> |
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「日本語の通訳を!」
サブプライム問題時のアメリカ金融界の混乱とその収拾を描く本「Too Big To Fail」(=大きすぎて潰せない)のテレビ映画版を見た。大学院の授業の議論の中で話題になり、アメリカ人の学生が貸してくれた(インターネットでも一部視聴可能)。ポールソン前財務長官やバーナンキ米国米連邦準備理事会(FRB)議長、ガイトナー前ニューヨーク連邦銀行総裁(現財務長官)、アメリカ議会や投資銀行のトップたちが、未曾有の金融危機の中でのリーマンブラザーズ倒産やAIGなどの救済時に、どう行動したか、実名入りでドキュメンタリー風に描かれている。原作は「Too Big To Read」(長すぎて読めない)と言われるほどの長編だが、テレビ映画は1時間半強でエッセンスを取り出し、専門家でなくてもわかりやすい内容になっている。
エンターテインメント的な要素も盛り込んでいるが実にリアルなその映画の中に、日本が登場する場面がいくつかある。ついつい注目してしまったのだが、一つは銀行への公的資金の注入案に対して日本と同じことをして不良債権問題解決を長期化させたくない、とポールソン長官が発言する場面だ(結局公的資金注入は実施された)。またアメリカの銀行の救済のための買い手として日本の金融機関では意思決定が間に合わないといった趣旨の発言があった。そしてもう一つが、中国相手の交渉が頓挫して窮地に陥った1つの投資銀行が日本の銀行との交渉に入るという場面である。その投資銀行のトップのセリフが「日本語の通訳を手配してくれ」なのである。
それまでに映画では、財務長官や米銀の経営陣が中国の政府高官や韓国の銀行経営陣と丁々発止で英語でやりとりをする場面が出てくる。また、今やIMF専務理事候補として有力なラガルド仏蔵相がポールソン財務長官にきつい調子でAIGを救済せよと迫る場面もある。それだけに、アジアでも日本の銀行だけが緊急事態において、トップ間で英語でコミュニケーションしていないことが浮き彫りになるように描かれていたのは非常に気になった。それが一般的な見方なのだろう。
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